形成外科領域における医療材料 ―過去から現在―「フィラー」
フィラー注入治療の歴史と現状
100年以上も前から、体内への注入剤は凹凸の修正などに用いられてきました 。近年では、安全に使用できる材料の普及に伴い、メスを使わない「非手術的な治療」が美容外科の主流となっています 。
注射針やカニューレを用いるこの手法は、体への負担(ダウンタイム)が非常に少なく、施術者・患者双方にとって受け入れやすい治療法として確立されています 。現在、注入材料は多岐にわたるため、その特性を正しく理解し、目的に応じた適切な選択をすることが重要です 。
注入材料の分類
注入材料は、体内に吸収されるかどうかに応じて大きく3つのカテゴリーに分類されます 。
1. 吸収性材料
時間の経過とともに体内に吸収される材料で、現在の主流です。
ヒアルロン酸製剤:現在の注入治療において最も広く用いられています 。アレルギーのリスクが極めて低く、万が一過剰に注入した場合でも分解酵素で元に戻せる点が大きな特徴です 。
コラーゲン製剤:ウシ、ヒト、ブタ由来の3種類が存在します 。ウシ由来は40年以上の歴史があり、使用方法が確立されていますが、事前の皮内テストが必要です 。ヒト由来はアレルギー反応がほとんどなく、テストなしで使用できる利点があります 。
ポリ乳酸(PLA)/ ポリカプロラクトン(PCL): 注入部位で軽い炎症反応を起こし、自身のコラーゲン産生を促す作用があります 。効果は緩やかですが、持続期間が長い傾向にあります 。
ハイドロキシアパタイト:骨の成分と同じ無機質を主成分とし、アレルギー反応の心配がほとんどありません 。拡散しにくいため、鼻や顎など形をしっかり出したい部位の隆起に適しています 。
PRP(多血小板血漿):患者自身の血液から抽出した成長因子を利用する方法です 。添加物(b-FGFなど)を使用する場合は、凹凸のリスクを避けるため慎重な濃度調整が求められます 。
2. 非吸収性材料
体内に吸収されず、半永久的に残る材料ですが、合併症のリスクから現在は慎重な判断が必要です。
パラフィン / 液体シリコン:肉芽腫や石灰化、疼痛といった重篤な合併症の報告が相次いでいます 。
ポリアクリルアミド:1990年代から臨床に用いられましたが、重合されなかったモノマー(成分)に強い毒性がある点や、腫脹・変形などの合併症が懸念されています 。
3. 吸収性・非吸収性の混合材料
コラーゲンやヒアルロン酸に、非吸収性成分(PMMAやアクリルハイドロゲルなど)を混ぜた製剤です 。持続性を高める狙いがありますが、肉芽腫の発生やアレルギー反応の懸念から、使用が制限されたり製造中止になったりしたものもあります 。
まとめ/適切な材料選びのために
注入治療は日々進化しており、新しい製剤が次々と開発されています 。それぞれの材料には明確なメリットとデメリットがあるため、注入手技や適用を正しく理解し、目的とする治療に最も適した製剤を選択することが、安全で満足度の高い結果へと繋がります 。
50歳代、男性
- 額右半分を Esthelis® Basic(Anteis 社,スイス)で治療する前
- 治療後 10 ヵ月の所見。まだ右側のシワは目立たない
本稿は、征矢野進一による「形成外科領域における医療材料 ―過去から現在― フィラー」形成外科第61巻 第4号の内容を元に構成しています 。



















